50 災害弱者と「大丈夫」

「大丈夫?」といえば
「大丈夫」と帰ってくる。
こだまでしょうか?
いいえ、建前です。

「遠い親戚より近くの他人」という言葉がある。
これを読んでいる方にも直撃地域に知り合いや親戚が居るかもしれない。
よく憶えておいていただけると幸いである。

当然だが、被災者には遠くに居て被災していない子供、兄弟から細かく連絡が来る。
たいてい「大丈夫、大丈夫。心配しないで」という返事になる。

しかし、実際大丈夫な人もいれば、大丈夫じゃない人も多い。家だけならともかく、仕事ごと流れる例が多いのだ。
ただ特に心配をかけたくない相手に「ダメだ」とは言えないのが人の心というものである。

一方、これが同じダメージを負ったご近所同士だと「大丈夫」という会話にならない。
大丈夫じゃないからだ。

前も触れたが、大丈夫な人、つまり被災者でもお金がある人は今回の津波をまったく問題にしなかった。
津波が来て家が壊されるやいなや、
「もう一件は壊れなかったので」
「一括で家買ったよ」
と即座に引っ越す選択が出来た。
いうならば、財布を落としたのとあまり変わりはない。

金はつくづく力だ。

人生設計は大事だが、日本といえど60年も生きれば一生に一度災害や戦争に巻き込まれるものである。景気などの要因が下り坂だとその一度で致命打を受ける可能性はそんなに少なくない。

大丈夫じゃない人に話を戻そう。
先に「共感」が得られている状態、得られていない状態に触れたと思うが、同じ苦難に直面したご近所は「なんでも相談できる身内」で、たとえ親兄弟でも全く違う状況に置かれると「心配をかけたくない他人」になるようだ。
何せ一緒に困難を体験していないので話は通じない。そしていくらでも安心させられる。
こんなに容赦ないんだなと思うくらい架空の世界扱いされる。おとぎ話。

この電話で遠い家族に「大丈夫、大丈夫」と返事する人が被災者同士だとどういう話をするのか。
私が実際に聞いた話の一部を紹介する。

「津波に巻き込まれて終わればよかった」
「いやー無理だよ いい自殺の仕方調べてるんだけどさ!」(これからどうするんですか?と言う質問に対し明るい口調で)
「もういい」
生きるか死ぬかは本人に任せるべきではあると思うが、戦前山間から嫁いできた母方の祖母が来るなりこんな事を言っていて、見届けるところを想像するとあまり気持ちの良いものでは無かった。

同じ文化や伝統、境遇で集まるのは一般的な人間の性質である。
非経験者に話が通じず、「いけるいける」、「頑張れ」、「大丈夫だよ」と何も知らない人間(身内にも)から無責任に励まされる不快感を本能的に恐れているからか・・

そんなことを言われずとも明日は来る。
そして何を言わずともうなずいてくれるご近所は居るわけだ。

何度も説明したと思うが、正直に話してくれと言っても体験していなければ決して通じない。

こういっては何だが、「大丈夫」といわれた人は、安心したはずだ。

自分が被災していようがしていまいが、相手は安心させたいだろう。
大丈夫というならそこに突っ込む必要はないが、信じないほうがいいだろう。

心配なら「大丈夫?」から入るより他の方法があると考えられる。
それこそ人によってできる事や求められることは違う。

「ダメだな」といえば
「ダメだ」と帰ってくる。
こだまでしょうか?
いいえ、本音です。