69 所感 自粛2

節電の影響で、特にライトアップにも自粛が見られた。電力に余裕のある春の夜に節電する”必要”はない。
某所で桜のライトアップをするって公式HPに書いてあったので行ったら、しっかりと中止!往復300kmも移動したのに・・・!
ちょっと心でも洗われるものを見に行くか、と思ったらバチが当たった。
散る桜 残る桜も 散る桜・・・・

自粛とは何なのか。他者を悪い意味でなんらかの刺激しないための慎んだ行動、としよう。被災地では2種類。(たぶん・・)

まず「痛みを分かち合う」ために「贅沢をしない」「楽しまない」というものだ。

家が残っているだけで「申し訳ない」と考える人も居るし、生きているのが申し訳ないと言う人も居る。たとえば(仲が良いなら)家族が入院したときに心から酒を楽しんだりできないものだ。自然な感情であるといえる。

これに近いのだが、もう一つ。「妬みや怒りをかわす」ために「贅沢をしない」「楽しまない」というものだ。

自動車が流される頃スポーツタイプの車を買うために貯金していた母は通常の乗用車を購入した。近所の視線があるからだ。
内陸の人間が被災直後に有名な石巻の日和山に花見で来て、がれきを眺めながら酔っ払い始めたら気の荒い地元住民にいきなり殴られるかもしれない。
妬みやら怒りをぶつけられることを普通の人は嫌うため、自粛するということになる。触らぬ神にたたりなしだ。
家が残っているだけで「向けられる白い目が怖い」と言う人も居る。
「酷い・・・ですね」ではなく「すげーすげー」といいながら撮る「写メ」が怒られるのに似ている。
行為は一緒だが、この微妙な違いが自粛の有無の意味合いを持つ。

前者は何も述べる必要は無いが、後者はむしろそのくらい大目に見ろという話にもなるし、小さいヤツだな、という話にもなる。しかし、人は人に簡単に白い目を向けてしまうようだ。
被災地では特にいい歳をした大人は、あらゆるものが自粛対象になる。一方、子供は許される。
「人はある程度人の気持ちを分かってくれるもの」への期待なのかもしれない。

花見を精神面、経済面で見ていってみよう。花見で盛り上がる。酒を飲む!確かに被災地の経済が回る。酒造業界は酒が売れるのは素晴らしい。某酒造会社の社員は言う。

――(酒蔵の名前)さんも結構被害あったでしょう?
「品質とか心配されますから具体的に口に出せないですけど、被害は大きいです」
彼らはお酒を沢山買ってもらえると、とてもありがたいだろう。

しかし4月初旬、東日本太平洋沿岸部はどういう状態だっただろうか?めちゃくちゃである。連日目に見える場所で遺体が上げられるのだ。終わりはない。
被災者の気持ちとしては、ああ東京では花見が出来るんだな、それは素晴らしい!ただ、あまりその様子を見たいとは思わないので勝手にやってくれ、というのが自然な反応かも知れない。物理的に東京は目が届かないので、まさしく「勝手にやってくれ」だ。
ところが見える範囲、テレビでもバラエティで花見を流して、結果合理的に・・・被災地の飲酒の消費を煽ったとしよう。
しかし被災地の子供はそんな大人を見てどう思うだろうか?私はあまり子供にとっていい印象を与えるとは思えない。

早めにバラエティなど再開した局にはかなりの不評な眼が向けられたようで、もっと自粛しろという話も出た。イメージ最重要の民間の企業のCMからACのCMに変わり、そしてそれが長期にわたって続いたのは”合理的”な判断といえると思う。
私自身、あまり時間が経ってない時期に脳天気な番組をみると「そいつは良かったな!」とテレビのチャンネルを回したくなったモノである。

人間はあまり合理的ではない。ただ感情で生きる生物である。
自分の現在の教養や体格は望んだとおり合理的か・・・
今までしてきた仕事・・・合理的だっただろうか・・・・
怒らなくて良い所で怒る・・・折れなくて良い所で折れる・・・
そういう生き物だ。

■戦場で戦う兵士たちにも合理的なはずだった月面着陸■

ベトナム戦争というアメリカを代表する資本主義VSソビエト連邦を代表する共産主義の泥沼の戦いの最中、アメリカは月へ行った。アポロ計画である。
※ソ連・・・・今で言うロシアのこと。旧ソ連。

この当時、アメリカが月に行くという行為には非常に意味があった。当時世界最高と言われたソ連のミサイルの性能をアメリカは上回ったぞ、ということを意味するのだ。だからベトナムで戦う兵士たちにもありがたいはずだった。少なくとも失敗するよりはいいし、打ち上げないでミサイルの性能はソ連が最高だ、と思い続けられるよりもいいはずだ。

しかし「映像の世紀」(NHK)でアメリカ兵はこう語っているのを取り上げている。

”それはひどく不気味な光景だった。
アメリカという国はベトナムの泥沼を這いずり回って暮らす数十万の我々全員よりも、月面にいるたった二人の男のことのほうをずっと心配していたのだ。
得体の知れない感情が、こみ上げてきた。”

私個人の意見としては、子供が高熱を出したときに親が食事も忘れて熱を冷ましてくれる方が教育には”絶対に”良いと思う。合理的とはいえ、たいして時間も経ってないのにちょっとうまいもの食って体力補給するぞ、と親がウナギをほおばる姿はみせないほうがいい。
精神は人間にとって非常に大きいウェイトを占める。今ではどうやって”合理的”に良好な精神状態を保つのか、とメンタルトレーニングがあるほどだ。

「痛みを分かち合う」というのは精神論ということで何故か?馬鹿にされがちであるが、人は精神で動く。経済面・精神面、同時に考えて戴きたいとも思うのである。どちらに傾倒せよというわけではない。

結果、花見は行われつつも、ライトアップなどは控えつつ、平年より適度に静かになったという。
自粛しろと行った都知事も効果があったかもしれないし、そもそも自粛者は都知事関係なく自粛するから意味がなかったかも知れない。
結果として、バランスがとれた花見だったとは思う。

「とんでもないことを言うな!都知事!」というより、「面白い事言うね!でも募金箱置けとか、家では酒を楽しめくらいのことを言ってほしかったね」くらいにとどめておいて欲しいとは思うのである。

ちなみに最近は日本酒のレベルが上がってきている。
一時期の焼酎のハイレベル化で日本酒から離れた方、いかがだろうか。
安いところでは冷やした一ノ蔵・本醸造辛口あたりから入るのが良いだろう。