63 多賀城

朝日が出ると
林に大きい自動車がたくさん生えている
エンジンが重く、下を向いたまま流されて
人でも入りたがらないような狭い木々の隙間に
逆立ちのまま埋め込まれているのだ

不自然な影を地面に映す木漏れ日の
あまりの幻想的なその光景に息をのんだ

その光景に出くわして私がそこを撮らなかったというのは、私が何を求めていたのかわからない。
なんでだろうか?

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多賀城市。

 

「ここを超えれば、たばこを買える」
ある七ヶ浜町の喫煙者。浸水範囲から仙台側に離れたところではタバコが売り切れになっていなかったため。
七ヶ浜町はどこに行くにも浸水範囲を通る必要があった。当時は道路がない。

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多賀城~東松島が今回の舞台である。

まずは多賀城。
石巻の山津波ではないが、やはり津波は1方行、等速度でくるものではないと教えてくれる。

例によって、多賀城は防災無線の大半が鳴らなかった。
この同じMade in Japanで鉄板の安全運行と言われる新幹線と防災無線の差はなんなのか・・・

多賀城市は都市型津波を雄弁に語った。
他の地域、例えば仙台市などは大都市に見えるが、今回の被害の中心は一軒家が並ぶ住宅地区が主である。
今回の都市型津波の代表格がこの多賀城市である。
多賀城工場地帯は「崩れない建物」が集まっていた。

都市型津波はまず今まで以上に海が見えない。
崩れない建物が視界を遮り、海の方向がどうなっているかすらわからない。
建物が高いため、津波が生み出す唯一視認できる土煙もあまり見えない。

そして崩れない建物に波がぶつかると、水が急激に狭いところに入り込み、一気に速度が上がる。破壊力が増す。

建物を縫うように進んだ津波はたとえば前後同時にやってくる。2方向から一気に水が来るのだ。
現代において、津波は海から来るとは限らないのである。
さらに不運なことに、多賀城の激甚被害区域と海を挟むように砂押川という川があり、その川は海側に溢れてきた。

つまり最悪3方向から津波が来ることになる。

とはいえ崩れない建物があるわけで、車ごと浮き上がったところで何とか逃げ出す、と言う選択肢も生まれると言えば生まれる・・・

少々脇道にそれるが、ある被災者は言う。
「テレビでよくあるヘリで救助されるシーン。
みんなぐったりしてるでしょ?ただ一晩待ってただけなのにあんなぐったりするもんじゃないだろ、と思ってたんだよ。
ところが実際助けられる立場になったら、すごい安心してね、腰抜けちゃうんだよ。もう立つなんてとんでもない」