13 消防団 – 志願兵(ボランティア)

「にいちゃん、こっちの方がよく見えるべ」
軽自動車を止めて火災の様子を見ている中年男性が草木をかき分けて言う。
「え はい 草で隠れてる穴があるので気を付けて下さいね」
ここで20年前に一緒に遊んでいた友人が分厚い草に惑わされ足場を踏み外し落下、骨折している。
カメラを回すと男性は言う。
「菖蒲田の友人んとこさ行こうと思ったんだけど水でいかれねすぺ」(行けないでしょ)
「・・・・・ええ」
菖蒲田・・・
「ガソリンスタンドの隣にあるんだげど」
「ええ・・・・・・」

22:30頃だっただろうか。
地元消防団の消防車がサイレンを鳴らし”製油所で火災が発生しました、爆発する恐れがあるので何も持たずに徒歩で小学校に避難してください”と繰り返し始めた。
聞いていた話の通りだな、と急いで写真を何枚か撮影し、素直に指示に従ってカメラを置き携帯や鍵程度以外何も持たずに徒歩で避難を始めた。

この避難指示は町内放送を伴っていない。この時点で疑問点はあったのだが、後に調べると正式に製油所から町へ避難指示を出して欲しいと要請があったのは翌日だったということである。
つまり消防団の避難指示は言うならば彼らの”自主判断”である。

 

消防団

消防団は地元民で形成されるボランティアである。給料は無い。タダ働きだ。
消防団は交番の警察官と同じく最初からそこに居るので、災害が緊急事態が発生したときに避難を呼びかけ、言うならば人々に緊張感を与える。
そして災害を食い止めるために戦う。その後、捜索や救助も行う。

自衛隊は可能な限り素早く展開するが、その場に最初から居るわけではない。捜索、救助や支援が主な活動内容で、安心を与える。
消防団とは比べものにならない予算と訓練で能力も高い。当然長期にわたって活動でき、感謝の度合いも高い。

消防団があまり恵まれているとは言いがたい。火事が起きれば時間を問わず跳ね起き、鎮火し消防署が帰っても消防団は残り、乾燥注意報が出れば町内を回り、イベントがあれば警備をし、地元の安全に気を配る。
そして安全対策という仕事内容から責任の度合いは重い。たとえば災害時最適では無い避難指示をしてしまったとき、そして何かが起こったとき、どれだけ責められるのだろうか。
ところが地元住民は普段から「暇人」と言う程度の関心しか示さず、あるときはサイレンで子供が起きたと文句を言われ、非番のときは酒を飲むのが見つかればそれで消防団が務まるのか、と文句を言われる。完全なる滅私奉公だ。

これから紹介する彼らの働きを記憶せよ。

 

岩手県大槌町では住民に避難を呼びかけ、最期まで津波が来ても半鐘を鳴らし続けた。11名が死亡した。
彼らにも守りたかった家族や生活があるだろう。しかし一人でも多くの人々を逃がすために津波と戦いを続けたのである。

otsuchi_firefighter  うち捨てられるように破壊された消防車を沈んだ日が青く染めた – 岩手県大槌町役場前

同県山田町でも住民の財産を守るために水門を閉鎖、逃げ遅れている人々の救助などを行っている間に9名が死亡した。

 

tarou_firefighter  正面から見ると元が何だったのかわからないほどの破壊を受けた消防車にヘルメットが転がる – 写真は岩手県田老で

消防団員は自分の全てを賭けて役割を果たそうとした。そして今回も確かに果たした。
死は必要性やヒロイズムなどでもたらされたものではなく、この”化け物”を相手に一歩も引かずに戦いを挑んだというその結果に過ぎない。そして彼らはそこまでしてくれたのである。

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“化け物”は鉄で出来た分厚い水門を易々と貫通し転がした – 岩手県大槌町

この光景を記憶せよ。

それが仕事だと言う人も居る。
確かに消防団員になって真っ先に逃げてしまったら一生後悔するだろう。
子供はいじめられるかもしれない。”消防団員になったら”使命感からほとんどの人は逃げないに違いない。
しかし彼らは自主的にその立場を買って出ることが出来た存在だという事を忘れてはならない。

 

私が何を言いたいのかというと、彼らに素直に従うべきだということだ。
我々が安全でなければ、彼らは避難できない。
消防団員を生かし、また殉職者を活かすのは一人一人の防災意識である。