7/23にオライリー・ジャパン様から
ヘルシープログラマ - プログラミングを楽しく続けるための健康Hack 著 Joe Kutner
が出版され、
ご縁からオライリー・ジャパン様より献本戴きましたので、書評を書かせて戴きます。
自己紹介
私は長い間、自分の記録を伸ばすためのトレーニングをしてきて、開発と体の調子の折り合いの付け方を常に考えてきました。この仕事を始めてから、考えてこなかった日は1日たりとも無いでしょう。
おかげさまで、握力の記録に関しては一定の評価を戴けるようになりましたが、毎年開発由来のガタや弱体化が強くなってきているように思えます。
私はダイエットなどは特に気にしなくてよいコンディションですが、取れづらくなった開発由来の慢性痛などは一件問題無く見えるウエスト、実行出来ているハードトレーニングに必ずしも関係ありません。
「はーペイン」が口癖になってきました。
前書
タイトルの通り、本書はITエンジニアが悩む健康問題について述べています。
私が思うに、お薦めの対象読者はアラサー以上の健康が気になり始めているエンジニアです。
まず、著者は内科医で、かつエンジニアです。読んでいる最中、ヘルシーという問題に本当に何年も悩んで来たのだろうという思いが伝わってきます。こういったタイトルのまともな本はいつか出るだろうと思っていましたが、ここまでの完成度に――後述しますが、優しい文体ながらこんなにも要求は高く――仕上げてくるとは思いませんでした。
本書はなるべく習慣に取り入れやすく気を使っていますが、(素晴らしいことに)最終的には甘い話はありません。
それゆえ、まず注意しておきたいのは、
この本は読み物ではなく、Hello World!から始まる技術書です。
よく出来た本だと思いますので、基本的には
・言語を学ぶつもりで読むこと。
(もちろん、実際に使う前提である必要もありません)
・俺は○○だからなー、とかウチは○○だからなー、とかいいわけを準備しない。
(C++の本を読む前に、ウチはグローバル変数しか使わないから・・・といってるのと同じだと思って下さい)
これらに気をつければ、実践出来なくても、よく分からない慢性的な不調などの原因を探すのに大きな手がかりになるでしょう。
内容紹介
それでは、詳しくなりすぎない程度に、本の内容をご紹介します。もくじではありません。
- 20分に一回、 姿勢を変える・・・
- 1時間に一回、5分運動する・・・
- 2時間に30分、椅子から離れられる仕事を行う・・・
- ダイエット・・・
- ウォーキングが重要。1日に20分以上早歩きをする。腰痛・手首痛対策の運動を行う。ハード・トレーニングで追い込む。
(たとえばウォーキングは東京でしたら、階段上り下りするだけでかなり歩くので問題無いでしょう。営業兼エンジニアなら、さらに必要無くなるはずです) - 免疫力を向上させる習慣を付ける・・・
- ポモドーロテクニック※等を使った実践的な取り入れ方
(※ポモドーロテクニックでググること) - チームの理解。チームでの運動(ドッジボールなど)を含む・・・
- イングレスで歩け!
等々。
本書では、「いいイス」にあまり触れられていません。
「20分に一回姿勢を変える」では、いい環境はいい机が必要であり、それは最低3つの姿勢を使い分けられる机、何種類か用意出来るイスを用意することが重要だと述べています。
理想の着座姿勢でも、スタンディングの姿勢でも、20分以上の静止は循環器系に良くないということです。
(体の声を意識するような人々でしたら、ストレスで”胸が痛い””胃が痛い”という以外にも、動かずに20分居ると、なんとなく”胸が重い”ような感覚が得られると思います そうでなくとも、単純な不快感が得られるかなと)
完璧な一つの姿勢は存在しないというのは本書に一貫したテーマであると強く述べられています。
最低3つの姿勢を使い分けられる机は現実的ではないので、つい、「いいイス」の話になってしまうのですが、本書はいい姿勢は腰痛などの可能性を軽減し、姿勢の変更は循環器系へのダメージを減らすと言うことで、切り分けています。いいですね!
私も実は可変デスクをつかって10年近く過ごしていますが、他人に説明するとき、この利点のエビデンスを持っておらず、力強く説明出来ませでした。かつ、「珍妙な説を聞きたくないんだよ俺はシャレオツなイスの話したいんだよ空気読めよ」みたいな雰囲気を感じ取ってしまって、イスの話に終始していました。
本書では私の保有している可変デスクより激しく稼働する、スタンディングまで変形するイスがよいと紹介されています。(おお・・・追銭N00,000円)
(もちろん、いいか悪いかわかりませんが、しょっちゅう打ち合わせにかり出されるエンジニアなら必要は姿勢は十分変わるので、必要ないでしょう)
本書ではDIYによるデスクの用意を紹介しています。これはシャレオツではないですが、血管を守るのに一役買うでしょう。
シャレオツな可変デスクの導入はペインを伴いますが、社員思いの会社なら是非。
そのほかにも、25分毎の(ポモドーロ毎の)シットアップやウォーキング、有酸素、筋力アップ(厳しいインターバルトレーニング気味の)のハードトレーニングによる限界までの追い込みなどが紹介されており、「楽な方法はない」「原因は一つではない」を地で行く内容になっています。
25分毎にシットアップを始める社員を賞賛する文化を構築するには、会社の器の大きさが試されるかも知れません。
「免疫強化」の項目も、無駄がなくて良いと思います。
「腰痛対策」の項における「コアの強化」という表現についてちょっとだけ指摘もしておきます。
作者が別なページで「腹筋が仕上がっていても腰痛に悩まされる人もいるが」と指摘しているとおり、バーベルで3桁越えの重量で複雑な種目が出来る程コアが十分に強化された人間にも腰痛は襲ってきます。
内容自体はいい姿勢や姿勢を変える、腰痛対策の体操で、方法としては間違っていませんが、コアの強化ではなく、腰が柔らかく力強く動く、というのを筋肉と、それ以上に脳に覚え込ませる作業として有効とされています。日本の整形外科でも最近はこのアプローチを増やしています。
とはいえ、前述したとおり方法は全く間違っていないと思いますので、軽く読み替える位に
しましょう。
(腰痛は何種類も存在するので、診断済みの慢性痛じゃない場合は医師に相談して下さい)
たとえばとれそうなバグを目の前に、これらを実行するのがどれだけ難しいかは想像が付きます。トイレ以外の全てを作業につぎ込みたくなるものです。
それは十分理解の上ですが、あらゆるテクニックを駆使して、出来るだけ自然に導入出来るような方法についても述べられています。
感想と、最も重要な「メンタル」に関して
可能な限り優しいスタートとなってはいますが、どんな本でもある程度リアルに充実した内容を感じる気配があるので、精神的に参った人が多い職種としては、ため息が出てしまう人が居るかも知れません。そして、そういう人にこそ最も重要である事はわかっているつもりです。
あるいは精神的に参っておらず、ジムでハードに追い込める人でも、25分毎にシットアップをしろと言われたらむずかしいと思います。
こういったモチベーションに関する精神的な部分の構築にはあまり触れられていませんが、習慣で作れる精神状態がある、という表現をしています。これは間違いありませんが、そういった言葉にも抵抗を憶える状態におかれている人が多いのも事実です。
たとえば、私は一般的な外食によるおいしそうな食事を見ると、単純に麻薬の注射器に見えます。一般的な外食による疲労感は非常に大きく、何もいいことをもたらさないように見えてしまうからです。
ハードに体作りに打ち込むと、勝手にそういった精神状態になるそうです。
(便利なことに、私はハメを外してもいい周期やつきあいではスイッチが切り替わり、おいしく食べられます)
これは努力という表現をする人も居ますが、私は単に脳にそういった現象が起きた幸運な人間に過ぎないと思っています。
そんな私ですが、25分毎(ポモドーロ)に運動と言われたらギョッとします。
「どうした?習慣で作れ!」というヤジが聞こえます。
私も単純に趣味、それに附帯する好みを越えることがまだ出来てないわけです。
一見、出来ていそうな人との「差」を特別なものに感じずに、気楽に構えて下さい。
脳に起きている出来事はメンタルも含め近年、ようやくMRI等で目に見えるようになってきました。本人には大きい問題でも目でわかる骨折などの怪我、先天性・後天性の障害と異なり、軽視されています。
実際はメンタルをトレーニングしたり脳の問題を修復する方が難しく、それに較べれば(場所によりますが)骨折なんかたいした問題では無いのに、「やる気が無いやつはダメ」といったような表現がまだ優勢です。
やる気がおきない、やる気がない、というのはヒト科のもつ最も複雑な機構の脳が生み出す現象であり、不調もあれば、先天的・後天的な問題もあるわけです。
本来、こういった本、あるいはトレーナーがリハビリするべきだと思っています。
ですので、メンタル面に自信がないが健康に不安があるというプログラマは何かおかしくなったときに原因を知る辞書として本書を読んでもいいと思います。
興味があれば、楽しんで下さい。