32 犯罪

「知っている限り非常に危険な事として、多人数が興奮するとより攻撃的になれること。
また国同士で経済的な差があったり、生命に対する価値観が異なったりするので・・・この差が大きいとやはり、より攻撃的になれること。5-10人だの某外国人だのは不味いね」

私は続ける。

「逆にも当てはまる。僕らが多人数になった時、うっかり攻撃的になって必要の無い攻撃を加えてしまう事がありうる」
「えらい優しいですね」
突っ込みが入る。
「そんな奴らは死んでも構わない、というのはごもっともだが、殺すというのは殺す方に大きい精神的問題を生む。話が長くなるから省略するけど、人間はそもそも、殺されてでも殺したくないようなんだ。そこを無理すると気が狂う。ベトナム帰還兵のようにね」

「詳しいですね 殺したことがありそうな」
Sが突っ込む。
「勘弁してくれよ。いいか、そうでなくてもくだらない喧嘩でガラスの破片が変な神経を引っ掛けたとする。そんときはかっこよく勝ったとしても一生障害者だ。武勇伝と引き替えるには、争いはつくづくむなしいものなんだよ」
「確かにそうッスね」
「そして、決定的なことがある。盗人への警戒なんて、本当かどうか、有事か平時かなんて関係無いってこと!夜になったら家の鍵をかける。自分の家の敷地で見たことも無い連中に出会ったら、間違いなく空き巣・・・窃盗犯以上は確定だ。声や音を出しても逃げないようなら強盗や殺人の類だろう。ここまで来たらもう戦うしかない。今警察も居ないし、電気もない。夜に警戒しようじゃないか。こんな大災害が来たときくらい、寝不足になってもいいだろう」

「な、なるほど」
SとTは何となく勢いで納得させられた気分になったような返事をする。

「いいか、金属のバケツをぶったたいてとにかく音を出せばいい。あとは大声を出すんだ。気付いたら俺が行ってなんとかする 相手が3人以下だといいが」
Tの家は2軒隣なだけで、近い。
「鳴らせるけど・・・ほ、本当に来てくれるの?」
Tは不安げである。Tは運動神経なら私より遙かに高いが、間違いなくこういった状況では怯える。人間が人間を相手にするときは、災害とは異なり容易に「パニック」を起こす。
人間は殺すよりも殺されるほうを選ぶのと一緒で、”人間の怒った表現”に基本的に弱いと言われる。

「なんというか、実際経験した事がないけど、たぶん大丈夫」
優先順位の問題である。こういうので逃げるのは私の中でおそらく死ぬよりかっこわるい。

「向こうが本気にならなくてもやばいのはボウガンとかの飛び道具だよ。さすがにまず持ってないと思うけど、めちゃくちゃ眩しい(高い)ヘッドライト、消火器、小回りが利く40cmも無いような鉛管(ガス管などにつかわれる金属の管)でなんとかしようか」

Tはなんとなく怯えながら言う。
「う、うん」

「最後はこれで手を叩くだけで済めばいいが」

ヘッドライト、消火器は視界を奪うため、戦いを避けることが出来るかも知れない強力且つ優しい武器だ。鉛管は?

私は昔剣道をやっており、籠手と面を相手に痛いように打ち込み怯ませるように重点を置いた練習ばかりしていたせいで、小学生の時点で師範に痛がられるようになっていた。しかしその変な練習のおかげで成長は遅かった。「さし面!それ本当に相手を倒せるんですか!」という、素直じゃない子供だった。そのおかげで、剣道最強の武器である突きを仕込まれるには至らなかった。(今は絶対にこんな無駄なことはしない)
その甲斐があってか?私はかなりの手首の力を保有している。どうしようもない接近戦になった場合、まずまずの場所にスナップを利かせた一撃を打ち込めば間違いはない。そのための鉛管である。

「僕も一応脅しのためにバケツをならすけど、大丈夫だ。来なくていい。その代わり気付いたらその場でバケツを鳴らして欲しい。思いっきりね」

「わ わかった」
Tはうなずく。

「お、おれは・・・」
しばらく蚊帳の外だったSは慎重に突っ込んでくる。残念だがSの家は爆弾でも爆発しない限り音が聞こえないほどの距離がある。

「アンタは家のモノはある程度諦めて、今のまま避難所にいな!命は絶対に助かるぞ!」
「えー!そんな!」

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実際の状態。こういった明るさで会話は続けられた – 3/15撮影

そんなこんなで暗くなった。道ばたで出会ったご近所さんにもその旨を伝えると解散した。
玄関にろうそくを余震で倒れないように立て、人が居ると示し、そして裏口に通じる道に音がよく鳴るトタンを仕込んで、裏口の方に開けた窓際を向いたまま軽く寝ることにした。朝になったら本格的に寝られることになる。

結局、電気が来るまでこれを繰り返すことになったのである。
避難所といい、どうも災害時は寝返りが打てないようだ。まさか家でも。

さあ、日没だ。

 

「まもなく 日没です・・・・」

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