22 三途の川

避難所の穏やかな空気を突如子供の酷い泣き声が切り裂いた。
木に縛っていた小型犬にガリリと噛まれたという。

中型・大型犬もこういった場所では警戒すべきだが、小型犬はその見た目から人が特に油断しがちになるようだ。子供たちが同じく木に縛られた中型・大型犬ではなく次々と小型犬を触ろうとする。
ペットショップの知人から聞けばどうも小型犬はサイズ故に飼い主に抱きかかえられる、上に乗せられるといった、”犬にとっての甘やかし”を受ける傾向にあるらしく、噛む性格になることが多いと言う。

かなり痛がっているようで、早速看護師歴足かけ40年の母親が看てくれないかと声をかけられ接収されていく。

犬としてはしつけ云々もあるが、地面は揺れるわ津波は来るわで知らない土地の知らない場所に唐突に放り込まれ知らない人間にいきなり触られるのもストレスということだろうか。
父親は小型犬のそばに張り付き、触ろうとする子供に「噛むぞ!やめろ!」と注意する。

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犬も辛そうである – 宮城県七ヶ浜町 3/12撮影

 

■動物災害

犬が悪いというわけでは無く、犬に対し不注意な人間に問題がある。災害時に動物をかわいがるのは避けた方がいいようだ。自衛隊がボートで展開する状況化で病院は無い。
時に何十年も人を噛まずになれていた筈の犬が、よりによって飼い主の手を陥没させるほどの牙を打ち込むことがある。飼い主は「してはならないことをしたようだ」と言っていたが、飼い主ですらこのようなミスを犯すことがあり得ると言う事である。

むろん猫も危険だ。我が家では猫を飼っていたが、あわれにも弟は腕をズタズタにされてやはり病院送りになったのである。猫はなんて危険な生物だと心から震え上がった。これが被災時に発生するとやはり病院は無い。

なんにせよ被災時には最低でも自分が飼い主じゃない動物に近寄らない方が良いようだ。特に子供にもそう教えておけば間違いは無いだろう。

一人で居るのもヒマなので自動車の貴重なバッテリーを使いラジオを付けると、なんだかよくわからない情報しか入ってこない。
「南三陸町は壊滅的な被害で、発表に寄りますと、住民の半数と連絡が取れていません・・・気仙沼市は甚大な被害・・・牡鹿半島では大量の遺体が発見されており、宮城県警は死者が1万人を超える見通しと発表しました・・・・」
壊滅的と甚大の違いはなんなのか検討がつかない。1960チリ地震津波を受けた岩手県大船渡市の光景なら写真で知っているがあんな感じだろうか?と考える。(大船渡市はチリ地震津波で最大の被害を受けた)
死者は昨日すぐに3桁に達した報告から、阪神大震災を上回るというのはすぐに考えたが、1万人に達するというのは想像できなかったのである。

 

なんで津波なんてもので
そんなに死ねるんだ
まさかみんな海に津波見学に行き
死んだとでもいうのか

 

わけがわからなくなってきた。今にして思えば、津波の破壊力が先日の爆発程度でしか実感出来ていないのが原因の考えが頭から離れないのである。

このころの私は情報を集めて所感を述べられる私では無い。
津波は三陸で常識であって、言われてみれば仙台で津波の看板は見れない事を意識した事は無かった。津波の看板を見ると、岩手県大船渡市にある実家が近い、と思うだけだった。

ラジオを聞きながら色々考えてしまう。
(どこかで「こうして、Tsunamiは世界共通語になりました」というのを日本は凄いでしょう!と言わんばかりのノリで聞かされたとき、不安を感じていたわけです・・・
それってつまり、何度も破壊を受けるという不名誉な歴史があるからでは無いか、とか・・・
それってなんというか、油断しまくった結果であって、そこからちゃんと学んでいますかとか・・・
国道45号線※には津波注意を促す看板の英訳にTsunami Warningと非常に古いTidal Wave Warningが混在していましたが・・・
その看板があるどちらにも、家がギッシリ建っていますとか・・・)

tidal-wave-warning
今では珍しいTidal Wave Warningの看板。古い表記の割に綺麗だ。少々”突破”されてしまったが -  岩手県田老

このあたりの地理には詳しい。ぐるりの様子をカメラを持って見に行ってみることにした。

 

※国道45号線 本震災の被災状況を最も雄弁に・・・悲惨すぎるほどに・・・物語るであろう、仙台から青森まで主に沿岸を貫通する国道。この国道が通った沿岸部で被害が無い市町村が存在しないと言って間違いはない。